« バカンスと現実逃避 | トップページ | 絹更月の記憶 »

2016年2月13日 (土)

真冬の再会

16020101
  

 

僕にとって好きな場所とは、簡単に言ってしまうと興味のある人物のようなものだろう。
だから偶に会っては様々な表情を知りたいと思ってしまう。ちょうど半年前のあの暑い日にも僕はこの四阿から湖面を眺めていた。平日だったけど時期的に観光客が大勢いたし、彼らの歓声や鳥や蝉の鳴き声にと賑やかな中で、ここの主である姫の伝説に思いを馳せていた。冬になるとここの姫の許へとやってきて一緒に暮らすという八郎潟の主の話は有名な伝説。真冬でも決して凍る事のない湖面と再会してみようと思ったのは、まぎれもないあの夏の日の事だった。

  
週末でもないこの厳冬期に、僕のような偏物な観光客などいるはずもなく、駐車場の売店は入口と窓に板がはめ込まれての冬季休業中。そう言えばここまで湖を半周する間にすれ違った車はわずか3台程で、仕事で通りかかったような商用車だけだった。そんなロンリーな僕にこの場所が見せてくれた表情は、相変わらず穏やかな湖面と耳鳴りとも錯覚してしまう程の静寂だ。
この静けさは雪の吸音効果もあって雪国特有のものだけど、風がなくても必ず湖面に波がたっている大きな猪苗代湖とは少し異なる、静かで穏やかな光景なのだ。そう言えば今回新しく知った事は湖面の標高は僕の住む町とほとんど同じだという事だけど、僕の街にくらべて雪の量はぐっと少なくて40cm程度だろうか。道路から5m程のこの水辺に立つにも夏の時分には棘のある草藪で難儀したものだけど、今の時期は除雪で飛ばされた雪が硬く締まっていてぬかるむ事もなく容易にたどり着く事ができる。

 

16020102

水辺に立ってみて、この湖が凍らないのは十分な水深があるからだと確か、市のHPに書いてあったのを思い出した。
直径数キロ程のこのちっちゃな湖は、よほどの強風が吹かなければ波は立たないと夏に売店の人が言っていた穏やかなこの湖面。表面の水が寒さで氷点下まで下がると当然比重が大きくなって湖底へと沈み込み、湖底からは一ケタの恒温に保たれた水が対流するかららしい。だからか、水辺から1m程は雪が極端に少ないのはそういう理由なのだと気がついた。冬の湖底には確かに二人分の体温が存在しているというのは、まんざら伝説だけの話ではないのかも知れないなと、湖面の美しい色を眺めていると、ついそんな事を想ってしまう。
ここの外周道路は半分以上の場所で道路と湖面の間に立木がある。今の季節は葉っぱがないので随分と見通しが良く、刻々と変化する冬の気候と湖面の色合いを楽しめる。それも今の季節ならではの愉しみだという事も訪れてみて初めて知った。

 

***

 

この一泊一日のバカンスが気に入っている理由が三つある。
盛岡という中間点は夕方仕事が引けてから出発してもそんなに遠くない北の街。日曜日の移動なので高速料金が割引されるから、晩メシは少し豪勢にいけること。そして去年見つけた朝メシのクチコミがすごいわりに、ビックリする程安い宿。朝食会場には郷土料理のコーナーがあってやはり今回も逃れられなかったのは、盛岡冷麺とひっつみ汁からスタートするまるっきりの岩手仕様の朝メシ。これも昨年見つけた宿から徒歩2分にある、寛文伍年・稲庭吉衛門創業という南部藩長屋酒場。半年前の暑い夏の夜。まだ見ぬ湖面に想いを馳せながら炉端席の肘掛椅子で、また違う季節にこの席に座ってみるのもいいかも知れない・・・と考えていた事を思い出していた。

このバカンスの全行程は約550km。
一日で廻れない距離ではないけれど疲労は最小限に、且つ時間を最大限にと考えれば、夕方の隙間時間を移動に充てるというのは正解のようだ。半行程ほど進んだこの北の街でスッキリと目覚める心地よい朝の感覚。熱いシャワーの後、非日常的な朝メシから始まるごく普通の休日はようやく始まったばかり。まるで家の玄関から出かけるように宿のロビーを後にし、少しのあいだ通勤渋滞にまぎれて市内を抜け出すと、再び南からのエトランゼとなって残り半行程の旅が始まる。

 

***

 

リアルなバーチャル寓具留ではなくて、想像力をかき立てられる道路地図でショートバカンスを楽しんでいて思った。
いままで二度この湖面には南からR-46を通じて入っていた。
けれど今度は三度目だから少し目先を変え、北からR-341経由で入るというのもいいかも知れないと。
理由は岩手山の北に”八幡平”という懐かしい文字を見つけたから。

 

<八幡平アスピーテライン>
 

それは免許をとってまだ間もない頃だった
十和田湖に向かう途中に通った
岩手県と秋田県を結ぶ
高低差1,200mのワインディングロード
  
あの頃はきっと目の前のコーナーをやり過ごすのに手いっぱいで
景色を眺める余裕などなかったにちがいない
 

けれど 今は違う
 

県境の見返り峠まで
岩手山を五時の方向から 十時の方向へと
200度あまり パノラマのように
ぐるっと旋回できるこの道のりは
今は深い雪の下で眠りについている
 

この街と同じ標高の湖面に
新緑が萌える頃には
きっとあの道のりも 眠りから目覚めることだろう
 
  
そしたらまた
北へと
出かけてみることにしようか。

 

 

 

 

16020103

***

***

***

***

***

***
  

 

|

« バカンスと現実逃避 | トップページ | 絹更月の記憶 »

好きなこと・好きなもの」カテゴリの記事