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2016年2月の記事

2016年2月26日 (金)

絹更月の記憶

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一年中で一番寒い今月も来週初めで終わりを迎える。
この街は累計積雪量が10メートルを超えるような豪雪地帯。けれども最低気温と言えば氷点下の一桁台前半に留まる程度で、きっと東北でも平均と言えるレベルなのだろう。そんな冬景色の中で1シーズンに一度か二度、しかも何の前ぶれもなくいきなり気温が氷点下20℃近くまで下がる朝がある。理由は大雪を降らせる寒気団とは無関係のようなので、きっと盆地という地形と放射冷却がもたらすもの。

そんな朝はきまって無風でぬけるような青空が広がっている。
顔を出したばかりの斜めの陽射しは、粉雪よりもさらに細かいダイヤモンドダストをキラキラと映し出す。細雪などは”降る”と表現しても違和感はないけれど、これはまさに空気中を舞う(漂う)美しい氷のダスト。太陽の方向に向かなければ見る事は出来ないから、朝の寝ぼけた体には体内時計をリセットする意味できっと良い事なのだ。

 

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この地方の方言で寒いことを”かんじる”という。
いまの季節は夕方になると急に冷え込んでくるから、その頃の挨拶言葉は”かんじてきたなぁ~”になるし、冷え込みの厳しい朝は”今朝はかんじたなぁ~”といった具合。僕は常々どんな字を書くのだろうと疑問に思っていた。普段の会話で使っている年配の人に、どんな字を宛てるのかと訊いてはみるけども誰も知らない。僕なりに推測して、(寒さを)”感じる”のかと思えばこれは違う。なぜならば夏の暑さに対しては使う言葉ではない。結局は辞書にも載っていないから勝手に当て字ではめ込めばこんな具合だろうか。

僕が北の街で郷土料理の朝飯を食べていたのは、まだ今月の初めの事。
出発まぎわに何気なく見たクルマの外気温計は、確か氷点下5℃を表示していた。そこから遙か南のこの街が氷点下19℃という、ひどく寒じた朝だった事を知ったのはその夜の事だった。予報では来週3月に入れば気温はぐんと上がり、春めいた陽気になると言っていた。どうやら今年はこの空気と光の粒に触れることなく、冬に別れを告げることになりそうだ。

 

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とても寒じた朝はこの盆地に溜まった冷気の中で、木々や街灯に付いた霧氷は昼頃までは融ける事はない。

<6/6>

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2016年2月13日 (土)

真冬の再会

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僕にとって好きな場所とは、簡単に言ってしまうと興味のある人物のようなものだろう。
だから偶に会っては様々な表情を知りたいと思ってしまう。ちょうど半年前のあの暑い日にも僕はこの四阿から湖面を眺めていた。平日だったけど時期的に観光客が大勢いたし、彼らの歓声や鳥や蝉の鳴き声にと賑やかな中で、ここの主である姫の伝説に思いを馳せていた。冬になるとここの姫の許へとやってきて一緒に暮らすという八郎潟の主の話は有名な伝説。真冬でも決して凍る事のない湖面と再会してみようと思ったのは、まぎれもないあの夏の日の事だった。

  
週末でもないこの厳冬期に、僕のような偏物な観光客などいるはずもなく、駐車場の売店は入口と窓に板がはめ込まれての冬季休業中。そう言えばここまで湖を半周する間にすれ違った車はわずか3台程で、仕事で通りかかったような商用車だけだった。そんなロンリーな僕にこの場所が見せてくれた表情は、相変わらず穏やかな湖面と耳鳴りとも錯覚してしまう程の静寂だ。
この静けさは雪の吸音効果もあって雪国特有のものだけど、風がなくても必ず湖面に波がたっている大きな猪苗代湖とは少し異なる、静かで穏やかな光景なのだ。そう言えば今回新しく知った事は湖面の標高は僕の住む町とほとんど同じだという事だけど、僕の街にくらべて雪の量はぐっと少なくて40cm程度だろうか。道路から5m程のこの水辺に立つにも夏の時分には棘のある草藪で難儀したものだけど、今の時期は除雪で飛ばされた雪が硬く締まっていてぬかるむ事もなく容易にたどり着く事ができる。

 

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水辺に立ってみて、この湖が凍らないのは十分な水深があるからだと確か、市のHPに書いてあったのを思い出した。
直径数キロ程のこのちっちゃな湖は、よほどの強風が吹かなければ波は立たないと夏に売店の人が言っていた穏やかなこの湖面。表面の水が寒さで氷点下まで下がると当然比重が大きくなって湖底へと沈み込み、湖底からは一ケタの恒温に保たれた水が対流するかららしい。だからか、水辺から1m程は雪が極端に少ないのはそういう理由なのだと気がついた。冬の湖底には確かに二人分の体温が存在しているというのは、まんざら伝説だけの話ではないのかも知れないなと、湖面の美しい色を眺めていると、ついそんな事を想ってしまう。
ここの外周道路は半分以上の場所で道路と湖面の間に立木がある。今の季節は葉っぱがないので随分と見通しが良く、刻々と変化する冬の気候と湖面の色合いを楽しめる。それも今の季節ならではの愉しみだという事も訪れてみて初めて知った。

 

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この一泊一日のバカンスが気に入っている理由が三つある。
盛岡という中間点は夕方仕事が引けてから出発してもそんなに遠くない北の街。日曜日の移動なので高速料金が割引されるから、晩メシは少し豪勢にいけること。そして去年見つけた朝メシのクチコミがすごいわりに、ビックリする程安い宿。朝食会場には郷土料理のコーナーがあってやはり今回も逃れられなかったのは、盛岡冷麺とひっつみ汁からスタートするまるっきりの岩手仕様の朝メシ。これも昨年見つけた宿から徒歩2分にある、寛文伍年・稲庭吉衛門創業という南部藩長屋酒場。半年前の暑い夏の夜。まだ見ぬ湖面に想いを馳せながら炉端席の肘掛椅子で、また違う季節にこの席に座ってみるのもいいかも知れない・・・と考えていた事を思い出していた。

このバカンスの全行程は約550km。
一日で廻れない距離ではないけれど疲労は最小限に、且つ時間を最大限にと考えれば、夕方の隙間時間を移動に充てるというのは正解のようだ。半行程ほど進んだこの北の街でスッキリと目覚める心地よい朝の感覚。熱いシャワーの後、非日常的な朝メシから始まるごく普通の休日はようやく始まったばかり。まるで家の玄関から出かけるように宿のロビーを後にし、少しのあいだ通勤渋滞にまぎれて市内を抜け出すと、再び南からのエトランゼとなって残り半行程の旅が始まる。

 

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リアルなバーチャル寓具留ではなくて、想像力をかき立てられる道路地図でショートバカンスを楽しんでいて思った。
いままで二度この湖面には南からR-46を通じて入っていた。
けれど今度は三度目だから少し目先を変え、北からR-341経由で入るというのもいいかも知れないと。
理由は岩手山の北に”八幡平”という懐かしい文字を見つけたから。

 

<八幡平アスピーテライン>
 

それは免許をとってまだ間もない頃だった
十和田湖に向かう途中に通った
岩手県と秋田県を結ぶ
高低差1,200mのワインディングロード
  
あの頃はきっと目の前のコーナーをやり過ごすのに手いっぱいで
景色を眺める余裕などなかったにちがいない
 

けれど 今は違う
 

県境の見返り峠まで
岩手山を五時の方向から 十時の方向へと
200度あまり パノラマのように
ぐるっと旋回できるこの道のりは
今は深い雪の下で眠りについている
 

この街と同じ標高の湖面に
新緑が萌える頃には
きっとあの道のりも 眠りから目覚めることだろう
 
  
そしたらまた
北へと
出かけてみることにしようか。

 

 

 

 

16020103

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