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2012年1月 7日 (土)

昔より狭く見える通学路 (1/2)

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新酒の仕込みが最盛期を迎えるちょうど今頃、フト思いだす光景と匂いがある。
もうかなり昔の話になるが僕が小学生のころ、通学路の途中に造り酒屋があった。当時紅顔の美少年であった僕には、造り酒屋(又は日本酒)とは何かなど知る由もなかったのだが、不思議な光景と匂いだったのをよく覚えている。

それは通学路に面した壁に小さな窓が3つ程しかなく、子供心にまるで何かの要塞のように思えた大きな大きな建物だった。色は薄いベージュだったような記憶がある。そのシーズンのトップバッターは、その壁面から等間隔で5つ程突き出たダクトから多量に吐き出されていた湯気だった。それはもち米を蒸したような匂いで、それがなぜ判ったかと言えば僕は餅自体よりも、餅になる前の(つくまえの蒸した)もち米を食べるのが何よりも好きだったからだ。
そして1週間か10日もすぎると子供ごころながらに、その湯気の中にえも言われぬ馨しい匂いが混じりだし、日々その大気中におけるppm濃度が増してゆくのを感じていた。

僕はいつもその前を通る時には、なぜか歩くのが少し遅くなり集団登校の列に少し遅れをとってしまっていていた事もあったし、一番高濃度のダクトの前では少し立ち止まって匂いを堪能してしまい、なんどか班長に注意された。きっと大酒飲みだった父親のDNAが僕にも刻まれていたであろうというのは、これを思い出してもまちがいない。いま想えばたぶん、盛り塩に足を止める牛車のようでもあったと思っている。
その匂いこそが日本酒の発酵臭である事を知ったのは、自らどぶろくを仕込んでみた20年後の事だった。



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< 造り酒屋-Ⅱ >
山形県米沢市

  
  
初めて試すもの。
それは恐るおそる且つ慎重に物事を運ぶからなのかわからないけれども、今までの事を思い返してみても、案外成功する事例が多いような気がする。僕の場合どぶろくのときもそうだった。
簡単に言えば蒸した米と麹を混ぜて、定量の水と混ぜるだけなのだが、発酵が始まるとこれが実に感動ものなのだ。表面が盛り上がりフツフツと泡が立ちはじめると、遠い昔の通学路の記憶が甦る。毎日のいわゆる塩梅見で日々アルコール度数が上がっていくのが実感できるのだ。当時はもちろん違法なわけでその背徳感を感じながらも、この”微生物の研究”をもう少し重ねようと思って、次はいきなり一斗(10升)に挑みいきなり失敗。結構高かった一斗分の麹や酒造米もわずか三晩で酢に帰してしまった。

敗因はたぶん雑菌の繁殖が原因だ。器具やポリ桶のアルコール消毒が不十分だったというかそれしか考えれれないのだけれど。
何事も小さな勝利に奢らず、常に初心を以て事にあたらなければならないものだと教えられた出来事だった。
   

***

    
当時造り酒屋とは知らなかったその工場が、駅前再開発都市計画道路の計画で、どぶろく密造の頃と前後して郊外に移転した。







     

    
  

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