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2011年6月19日 (日)

6月の花嫁

 

ここ一月ほどの間で、僕はどうもすっかり落ち込んでしまったようだ。
どうしても浮かび上がれなくて、もがきながら日々が過ぎてゆくという感じである。いままで気分が沈む事があっても、いつも1~2日
いや長くても2~3日でなんとか抜け出していた。しかし今回はもう4週間以上も続いていた。
なんだか真っ暗な海底に向かって累々と伸びる、負のスパイラルパイプの溶接目に袖口を掴まれ、それを下に向かってトレースされていくような気分だった。思い返してみるとここ1年近く僕の周りでは、あまり良くない事ばかりが起きていた。
義父母や知人が立て続けに亡くなったりしていた。それに追い討ちをかけるように連休が明けた途端にいくつかの事が重なってしまった。
そうなってくると普段あまり気にしないようなことも、やけに気になってくる。

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その日は沈んだ僕の心に、蜘蛛の糸を垂らしてくれるのだろうと期待していた久しぶりの結婚披露宴だった。不用意に突然襲ってくる弔事とは違い、予定表に書き込める慶事は実にいい。従甥の宴であったが、気分が高揚する華やかなめでたい席で、懐かしい人たちとの再会も楽しみな事だった。

***

  
結婚披露宴に出席するのは、おそらく3~4年ぶりになるだろうか。今回は少し趣向が変わっていたというか、これが『今風』なのかも知れない。会場の入り口で半年振りに会う従兄夫妻、新郎新婦、新婦の両親に祝福の挨拶を済ませて席に着いていた。
      
少し早い時間だったので、僕のテーブルはまだ定員の1/3ほどしか来場していなかった。フト背中向けのステージに目をやると一番奥。おおかたメンバーがそろったテーブルには多量の飲み物(もちろんアルコール)と最初に旬彩と記してある7品程が盛られた皿が運ばれて、お互いに注ぎ合いながら宴会がスタートしていた。やはり周囲の人たちもその光景にびっくりしたような表情で、何気なく視線を運んでたようだった。

そしてその理由が判ったのは僕らもおおかたメンバーがそろった時だった。料理と飲み物を運び終えるとウェイトレスは『新郎新婦の入場までお時間がありますのでどうぞお寛ぎください』とだけ案内すると下がってしまった。少しのあいだ皆で開演したテーブルと、それぞれの顔を交互に見合わせていたが、テーブルきっての長老の掛け声で僕らの『寛ぎ』も程なくスタートした。
  

1106033

< 華 >
山形県米沢市 
 

一番最後に到着したここのメンバーも、主役不在のフライング的な宴会を見てあっけにとられていたのだが、隣席の『まず、まず、まず』の声でたちまち仲間となっていた。
宴の次第では、司会者挨拶・新郎新婦入場・来賓祝辞・お謡い・両家代表謝辞でようやく乾杯となるのだが、その肝心な本番の頃には皆どの程度毒が廻っていたのかは、ご諸兄方の想像に難くないだろう。本来ならば乾杯までのこのプロセスは決して短い時間ではないのだが、今回は全然それを感じる事はなかった。これもそのもてなしという『演出』のねらいだったのかも知れない。
  
  

1106031

< 父と娘 >

    
程なく乾杯も終了し、祝電披露・アトラクション・スピーチなど。料理もスムーズに運ばれて宴はワン・ツー・スリーと順調に進行していった。
いよいよお色直しとなり、父にエスコートされて退席する花嫁の後ろ姿を見て、今年の3月に記した”父と娘 (雛人形を見て想ふこと)”の記事を思い出していた。
キチンと背筋を伸ばして歩き出す花嫁。
隣を歩く父親の背中には慶びよりもなんとなく寂しさの色合いが少しだけ濃いような気がしたのは、たぶん僕だけだったのかもしれないけれど、その時の父親の胸中を推量る事はやはり、花嫁の父を経験した人にしかできないことなのだろう。
  

1106032

< 誓い >

  
二人の披露宴は実に微笑ましく、友人らに祝福された幸せそのものの宴だった。そして僕自身縁起物と言われる(失礼!)6月の花嫁にお目にかかれたのも、幸運な事だったのかも知れない。
久しぶりに会う人々と弾む楽しく懐かしい会話の数々。本当に御無沙汰していた人とは、もう実に20年振りくらいの再会だったろうか。そして懐かしい顔ぶれが揃う中、幸せな二人を見ていると、自然に僕自身も幸せな気分になってゆくのだった。そして今まで暗く沈んでいた僕の心がようやく以て、ゆっくりと浮力を回復してゆくのを感じていた。
その感覚を胸に、これから二人して共に歩きはじめる若い二人の人生に幸多かれと祈りながら会場を後にした。
  
  
慶事とはいいものだ。
  
  
  
  
  
 
   

 

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