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2011年4月 7日 (木)

坂の途中のフラワーショップ と 越した知人のこと

   

"4月"のカレンダーに誘われて、久しぶりに見知らぬ街の路地を歩いてみたくなった。
その日はあまりタイトなスケジュールではなく、夕方早めに"書斎"に戻り軽い疲労感の中、期間限定『春の宵』を楽しみたいという魂胆もあったのだった。

この街はいままで繁華街の国道を何度となく通過するだけだった。
この場所を選んだ理由は特になく、単に車での移動時間が適当だと思ったからだ。
いつもの事だが、知らない街の路地を歩いていて角にくるたび、そこを曲がるかまっすぐ進むか迷う。
角を曲がってみようと決めたときは、もしその先に何もなければまたここへ帰ってくればいいと思って曲がるのだった。そして二度と戻らないこともあったし、またここに帰ってくることもあった。なんとなく人の人生に似ているような気がする。   

***

初めて歩くこの街、それも坂道に惹かれて右に曲がった先の事だ。
緩やかな坂を登り切る少し前に、そのフラワーショップはあった。坂を登りながら見上げたのは窓際に置かれた、色とりどりの薔薇とチューリップだった。
   
  

Flourshop__2

< flower shop Ⅰ >
福島県会津若松市

   
4月に入ったばかりの街はまだ単調な色彩の中だった。
けれどもその店は僕の目に、夕暮れの暗い海に明るく浮かぶモンサンミッシェルの夜景のように映った。
店の中は色とりどりの花たちで随分と混雑していた。それをウィンドー越しに通行人とも、客ともつかない微妙な距離から眺めていた時だった。
  

  Flourshop__3

< flower shop Ⅱ >

   
それまで忙しく手を動かしていた店の人がフト顔をあげ、目があった時に思わず 『えっ ! 』 と心の中で叫んでしまった。
その人は気の毒に花粉症なのだろうか、マスクこそしていたが、少なくとも髪型(いまはもう違うのだろうけれど)、目、背格好が僕の知る人にホントに良く似ていたのだった。どうやらその人にとって僕は招かざる客の類ではなかったらしく、わざわざドアを開けて声をかけてくれたのだが、最初の一歩を踏み出すまでのラグはどうしても隠せなかった。
店に入ると春先の少し冷たい風に曝された体を、暖房のあたたかな空気がもてなしてくれた。それに触れて初めて、ここがアートフラワーの店なのだと気がついたのだった。

地元の人間を装って話をしていたが、やはりバレてしまっていた。
どちらから?  の問いかけに、仕方なくここから北に68㌔離れた所からやって来たと白状したとたんに、気になりだしたのが左側の黄色いバラだった。アートフラワーならば助手席に放り出しておいても、帰りにかかる時間には煩わされないのだ。
   

Flourshop__4

< flower shop Ⅲ >

   
さっそく黄色い薔薇2本と幾本かのかすみ草を手にしたところで、僕の手は完全に止まってしまった。その先の花束を完成させるストーリーが、そこで途切れて浮かばなかった。ここで強引に選んでセンスのなさを曝け出すより、おとなしく白旗を揚げてプロに任せた方が賢明だと思った。
花をめぐる少ない会話の中から、おなじ聡明さも伝わってきたのだった。北からの一見客と知っているのに、帰り際にポイントカードを作ってくれた。名前を答えると即座に漢字で記入してくれたのだが、筆跡は以前領収書で見たものとはちゃんと違っていて、妙にほっとしたのだった。
それと、その日のノート欄にも名前が記入されてしまったのはなぜなのだろう?


花束を持ちながらおひとり様で歩くのは、いくら知らない街とはいえ些か気恥しいものだった。
それに僕はもう一つ急ぎの用事を思い出していた。早くどこかの店に入りたいと思ったがこんな時に限って見当たらないものである。
先程視線だけがスキャンした蕎麦屋の張り紙、(名物ソースかつ丼)が再び浮上したがだいぶ戻らなければならない。ひとつ角を曲がり先程のフラワーショップの通りに出た時に、ようやくCaféの看板が目に入った。

たぶんオーナーの趣味であろうか、昭和のアンティークなものがたくさん詰まったカフェだった。その店のびっくりするぐらい多いハヤシライスの中から、ピリ辛バージョンを選ぶと、中断していた急ぎの用事を再開した。それは先程の人に良く似た、知人の事を思い出す事だった。

Ring_ring_ring

<  ring _ ring _ ring・・・Hello!! >
福島県会津若松市

   

そういえば最近顔を合わせたのがもう16ヵ月も前の事になる。その直後に880㌔も離れた遠い所へ突然越してしまったのだ。
今思えばいろいろともの凄く忙しい時期だったのだろう、ひどく疲れた声を聴いたのはその3ヵ月後の事だった。

過日そのHPを訪ねる初めての機会があった。いや正確には待っていたと言う表現の方が正しいのかも知れない。
そこはセンスの良い調度品や小物の絵たちが散りばめられて素敵なページだった。そしてブログの中には今まで仕事に対して注いできた愛情やその歓び、また新しい出逢いなどの様々なドラマが楽しげに綴られていたのだった。

その中でも特に居心地の良い部屋があった。
それは仕事に対する "creed" が綴られた、美しいショパンのピアノが流れる部屋だった。そこで音楽に身を委ねていると、何かの理由でささくれ立っていた心が、なぜか少しづつ落ち着いてくるのを感じるのだった。週末頃にはそこを訪れて静かに音楽に聞き入るのも、僕にとっては距離をなくする素敵な時間なのだという事を知った。

その人の知人だった名も知れぬ旅人が、たぶん本人も知ることのなく託したふたつの願いの(№1)。 それらをもう手にしている事を願って止まないのだった。
  

***

  
今度いつかあの店を訪れる時は気恥しくないように、うんと大きなマチのある紙袋を持っていこう。
そして昼飯はあの蕎麦屋で、この地方名物のソースかつ丼にしよう。

   
        

これからしばらくは春特有の朧月が美しい季節だ。

きっとこの曲もそんなあたたかな春の月夜に似合うことだろう。




<Puer Moment >を聴きながら
   
  
   
    
    
   
    
    
    

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